ペインクリニック/緩和ケア外来
ペインクリニックとは
体のどこかに痛みや不調を感じたとき病院に行かれると思いますが、いきなりペインクリニックを選択される方はいないと思います。当科で急性期の痛みを診ることはほとんどありません。
当科で診療の対象となる場合は、
- 痛みの原因がわかっても、原因を取り除けないとき(がんの緩和ケアなど)
- 痛みの原因がなくなるまで、時間がかかるとき(手術後の長引く痛みなど)
- 痛みの原因の治療中、痛みが強すぎるとき(帯状疱疹に関する痛みなど)
- 画像検査でも、痛みの原因がよくわからないとき(多くの肩こり、腰痛など)
- 難治性で慢性的な痛み(線維筋痛症、複合性局所疼痛症候群など)
などとなります。
ペインクリニックで行う治療
神経ブロック注射
簡単に説明すれば、「痛み止めの注射」です。痛みを脳に伝える神経の電気信号を遮断する薬を注射することで、痛み止めの効果を発揮します。よって、「神経(の伝達を)ブロック(する)注射」と言われているわけです。
ひとくちに神経ブロック注射と言っても、簡単な体表面の注射から、針先が体の深部に至る注射までたくさんの種類があります。また、頭から体幹部、四肢まで至る所に注射をすることが可能です。
局所麻酔薬で一時的に神経伝達を遮断する方法と、神経破壊により長期的に神経伝達を遮断する方法に分類されます。
1.一時的に神経伝達を遮断する方法
なぜ、一時的な神経遮断で治療の意味があるのでしょうか?
痛みを感じる神経(知覚神経)に痛み刺激が加わると、脊髄から脳に向けて痛み信号が伝達されます。それだけではなく、同時に交感神経を興奮させ、血管収縮や筋緊張をきたします。それにより血行不良、酸素不足を招き、発痛物質が産生され、さらに知覚神経を興奮させます。そうなることで痛みを感じるサイクルがぐるぐると回り、これは痛みの悪循環と呼ばれ、長引く強い痛みと変わっていくのです(図1)。
このような痛みに対し、神経ブロック注射は知覚神経をブロックしたり、交感神経をブロックしたり(または両方)します。これにより、痛みの悪循環をストップしたり、血管収縮や筋緊張が緩和したりすることで鎮痛効果が発揮されます。また、発痛物質の洗浄という物理的効果を示すこともあります(図1)。
これらの作用により、単純な痛み止めとしての効果だけでなく、長い効果や治療効果が期待できます。
具体的には、表1にあるようなブロックの種類があるので、痛みに合わせてそれらのブロックを選択します。
2.長期的に神経伝達を遮断する方法
知覚神経を破壊してしまえば、もう痛みが出ることはありません。神経破壊ブロックとも呼ばれ、アルコールで神経を破壊したり、高周波熱凝固という方法で神経を焼灼したりして、知覚神経の機能を奪います。ところが、知覚神経のそばには運動神経が存在することが多く、運動神経の機能を奪ってしまうと、動かせない場所ができてしまい生活に支障が出てしまいます。なので、ブロックできる場所は、運動神経のない場所に限定されています。または図1でも登場した、交感神経のブロックになります。具体的には表2にあるようなブロックの種類があります。
最先端治療
脊髄刺激療装置植え込み術
表1の硬膜外ブロックを行う脊髄硬膜外腔という場所に、薬の代わりに電気リードを植え込みます。心臓のペースメーカーのように、電池も体内に植え込みます。これにより、脊髄に電気刺激を送ることができるようになります。脊髄を刺激することで、痛みの感覚を伝わりにくくしたり、周囲の血流を改善したりすることで、鎮痛効果を発揮します(図2)。
まずはトライアルとして、リードのみを一時的に挿入し、1週間から10日ほど電気刺激をテストします。その後いったん抜去し、効果があった人に対し、1か月以上開けて本植え込みを行います。本植え込みは全身麻酔下の手術になるので、この治療を受けるかどうかを1か月間しっかり考えていただきます。
伝統的治療
注射以外の“痛くない治療“もございます。中でも慢性的な痛みに対しては、体を温める作用の多い漢方薬が効果的であることが多いです。漢方薬だからと言って、副作用がないわけではないですが、その多くが大きな副作用なく安心して服用できます。西洋薬と組み合わせることで、相補的な効果も期待できます。
知覚神経に痛み刺激が加わると、脊髄から脳に向けて痛み信号が伝達されるだけではなく、同時に交感神経を興奮させ、血管収縮や筋緊張をきたす。それにより血行不良、酸素不足を招き、発痛物質が産生され、さらに知覚神経を興奮させる。これは痛みの悪循環と呼ばれ、長引く強い痛みと変化する。神経ブロック注射は、知覚神経や交感神経をブロックし、痛みの悪循環をストップしたり、血管収縮や筋緊張が緩和したりすることで鎮痛効果を発揮する。また、発痛物質の洗浄という物理的効果を示す。
図2. 脊髄刺激装置植え込み術
硬膜外腔に、2本のリード電極(青矢印)が挿入されている。リードは電池(黄色丸)と接続し、電池からプログラムした電気刺激を送ることで、鎮痛効果を発揮する。
緩和ケアとは
緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族の生活の質を、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチであると定義されております(WHO 2002)。
具体的には
- 痛みやその他のつらい症状を和らげる
- 生命を肯定し、死にゆくことを自然な過程と捉える
- 死を早めようとしたり遅らせようとしたりするものではない
- 心理的およびスピリチュアルなケアを含む
- 患者が最期までできる限り能動的に生きられるように支援する体制を提供する
- 患者の病の間も死別後も、家族が対処していけるように支援する体制を提供する
- 患者と家族のニーズに応えるためにチームアプローチを活用し、必要に応じて死別後のカウンセリングも行う
- 生活の質を高める。さらに、病の経過にも良い影響を及ぼす可能性がある
- 病の早い時期から化学療法や放射線療法などの生存期間の延長を意図して行われる治療と組み合わせて適応でき、つらい合併症をよりよく理解し対処するための精査も含む。
とされています。
(大坂 巌らPalliative Care Research, 14, 61-66, 2019.)
緩和ケア外来での治療
がんや、生命を脅かす病態にさらされたとき、症状で最も厄介なものは痛みです。多くの場合、医療用麻薬を用いて治療されます。
当科では、それ以外にもペインクリニックの知識を生かした神経ブロック療法による除痛を提供することができます。そのほか、呼吸の苦しさ、食欲不振、悪心嘔吐など、つらい症状を緩和することができますのでご相談ください。
一般的に、緩和ケアはチームで診療します。当院にも専門のチームがあります。先述したような身体症状にまつわる苦痛以外にも、病気になってしまったためにおこる精神的なつらさや、社会生活にまつわる不安にも相談可能なスタッフをそろえております。お気軽にご相談ください。
医師紹介
坂本 明之(さかもと あきゆき)
2002(H14)年卒
役職 | 麻酔科部長 |
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資格 | 日本麻酔科学会麻酔科専門医・指導医 日本ペインクリニック学会専門医 日本緩和医療学会指導医 日本慢性疼痛学会専門医 日本区域麻酔学会指導医 麻酔標榜医 |
専門分野 | 手術麻酔、ペインクリニック、緩和ケア |
担当医表
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