糖尿病センター
概要・診療方針
糖尿病患者数の増加にも関わらず、糖尿病診療に携わる医師の絶対的不足が続いています。一方、科別、臓器別、専門別、救急医療の推進による緊急性による選択、DPCの導入等による医療環境の細分化により、主訴の乏しい糖尿病が、放置されやすい状況がますます加速しています。こうした中、糖尿病診療に知識を深めたコメディカルスタッフによる患者支援体制が要求され、糖尿病療養指導士や、地域糖尿病療養指導士といった資格制度が確立されつつあります。当院でも、糖尿病療養指導士の数が徐々に増えてきていますが、「本人の希望と自助努力」という位置付けをなかなか超えることができず、志を持ったスタッフの知識や経験を、実際の医療現場において糖尿病患者に提供できる体制が、未だ欠如しているのが現状です。こうした状況を少しでも改善することを目的に、コメディカルスタッフを中心に、当院の入院、外来患者の糖尿病診療への支援のみならず、近隣の医療機関の糖尿病診療支援を実践すべく、平成22年4月より「糖尿病センター」を設置しました。これまでの実際の活動状況は以下の通りです。
- 糖尿病療養指導士による糖尿病指導外来の実施と拡充。
- 糖尿病療養指導士を中心とした検討会による患者、家族、医師、コメディカルスタッフへの助言。
- 糖尿病教室の開催と近隣医療機関スタッフのオープン参加。
- 糖尿病看護研修の支援と近隣医療機関スタッフのオープン参加。
- 管理栄養士による栄養指導。
- 理学療法士による運動療法指導。
- 薬剤師による薬物療法指導。
- 検査技師による検査の説明と指導。
- 糖尿病療養指導士会による院内ネットワークの構築。
- 糖尿病療養委員会の設置。
- 透析予防外来の実施
今後、これらの活動を拡充し、皆様の糖尿病診療に少しでも役立てるよう、支援をすすめていきたいと考えています。
糖尿病
糖尿病の定義
糖尿病は血液中に含まれるブドウ糖=血糖が慢性的に高くなる病気です。膵臓にはランゲルハンス島という細胞の集団があります。ここから分泌されるインスリンというホルモンが体の中で唯一血糖値をさげる物質です。このインスリンがうまく働かないで高血糖状態が続くことを糖尿病といいます。
糖尿病発症時の症状は口渇、多飲、多尿、体重減少などがありますが、多くの人ではほとんど無症状です。したがって健康診断などの機会に発見し治療を開始するべき疾患だと言えるでしょう。糖尿病をおろそかにしていると、合併症を発症し日常生活に著しい障害をきたします。合併症は生活の質を落としますがかなり進行にしないと症状が出てこないので、症状がないからといって、安心はできません。
糖尿病の診断
糖尿病の診断は厳密には複雑ですが、慢性の高血糖が糖尿病の定義です。空腹時の血糖値が126mg/dl以上、任意の時間で200mg/dl以上あれば慢性の高血糖があると考えられます。グリコヘモグロビン値(HbA1c)は、赤血球の中にある、酸素を運ぶ赤い物質ヘモグロビンのうち、ブドウ糖と結合しているヘモグロビンの割合をパーセントで表した指標です。この値は過去1〜2か月間の血糖コントロールとよく相関します。HbA1cが高ければ、その時点の血糖値は正常でも、1〜2か月は血糖の高い状態が続いていたことになります。治療の成績を知るよい指標になります。 慢性の高血糖を示すHbA1cが6.5%以上であれば事実上糖尿病があるといって良いと考えられます。
糖尿病の種類
1型糖尿病
糖尿病の種類は一つではありません。免疫の異常やウイルス感染によってインスリン分泌細胞が破壊され、インスリンが絶対的に足りなくなって起こる糖尿病を1型糖尿病と呼びます。1型糖尿病は生活習慣とは関係なくインスリン治療が必須です。
2型糖尿病
一般的な中高年で生活習慣の悪化により発症する糖尿病です。このほかに遺伝子の異常、肝臓や膵臓の病気、薬剤などが原因となって、糖尿病が引き起こされるほかの病気が原因となるものや、妊娠中に発見される妊娠糖尿病があります。
2型糖尿病
ストレスや過食、内臓肥満などの要因が加わるとインスリンの効きが悪くなります。これをインスリン抵抗性と言います。もともとインスリンの分泌が悪いなどの糖尿病になりやすい素因のある人は容易に血糖が上昇してきます。上がった血糖がインスリン分泌低下させとインスリン抵抗性を高めます。悪循環が慢性の高血糖をまねき2型糖尿病が発症します。発症には生活環境が重要です。しかしその程度は人によってことなります。2型糖尿病と遺伝の関係は糖尿病の遺伝というより糖尿病になりやすさの遺伝です。このため同じような生活環境でも糖尿病にならない、なりやすい、悪化しやすいなどの違いがでるのです。ただどちらにしても、インスリンの分泌の低下、インスリン抵抗性のいずれもあるのが、2型の糖尿病なので両方の治療が必要です。
糖尿病はまず食事の前の血糖値が上がります。その後、食後の血糖値が上昇し糖尿病の診断がつきます。しかし糖尿病の診断がついた時には、インスリンを出す細胞の機能はすでに半分でその後もどんどん悪くなります。そうなれば薬の効き目も悪くなります。ですから糖尿病は早めに治療することがだいじなことが判ります。
合併症
糖尿病には急性と慢性の合併症があります。著しい高血糖による意識の障害や低血糖や糖尿病で起きやすい感染症は急性合併症です。しかし一般に糖尿病で合併症というと慢性合併症が問題となります。眼、腎臓、神経の合併症をそれぞれ糖尿病眼症、糖尿病腎臓、糖尿病神経障害といい、合わせて3大合併症といいます。これらは糖尿病に特有で細い血管が冒されることによって起こり高血糖が主な原因とされています。
1) 糖尿病眼症
成人後の失明の主要原因の一つで、年間約 3,000人が糖尿病により光を失っています。症状は「視力が落ちる、物がゆがんで見える、目の前にひもや点が見える、視野が欠ける」などですが、高度の障害に至る直前まで症状がないことも少なくありません。進行する前での発見には眼科受診が必要です。進行して中心部で眼底出血や網膜剥離が起きると突然目が見えなくなることもあります。
2) 糖尿病腎症
年間1万人以上が、糖尿病による腎症が原因で人工透析を始めており、人工透析が必要になる主な原因の一つです。「だるい、疲れる、足がむくむ、貧血になる、吐き気がする、息苦しい」などの症状が現れますが、これらの症状が現れたときには腎臓の機能はかなり低下しています。腎臓の機能が落ちて来る前に尿にタンパク質が漏れてきます。タンパクが簡易検査でてくる前に治療開始しなくてはいけません。尿中アルブミンという検査をすることで早期発見ができます。
3) 糖尿病神経障害
症状は「足底の異常感覚、足底の感覚鈍麻、足(下腿)のしびれ感、蟻走感、足が冷たい、足の灼熱感、こむらがえり、(夜間増強することの多い)疼痛、立ちくらみ(起立性低血圧)」などがあり、症状に合わせた治療が行われます。
4)脳梗塞や心筋梗塞
突然起こり、命を奪うこともある恐ろしい病気で、命は助かっても、しばしば不自由な生活を強いられてしまいます。糖尿病患者は、糖尿病でない人の2~3倍これらの病気になりやすくことが判っています。また脳卒中や心筋梗塞で入院となった方の3分の2は糖尿病か糖尿病予備軍です。これらは糖尿病でおこる動脈硬化が原因です。糖尿病の動脈硬化は血糖値だけでなくいろいろなメタボリックな要因が絡んでいて、血圧、脂肪、肥満などの総合的な治療が必要とされています。
5)歯周病、癌、骨粗鬆症、サルコペニア
糖尿病は健康の質を落とす合併症が多いことに注意してください。
糖尿病の治療
糖尿病はけっして血糖値をさげればいいだけではありません。いまのところ遺伝的な点を直すのはむずかしいので他のすべてを総合的に治療します。1)生活習慣の改善、2)高血糖の治療、3)高血圧、脂質異常症などのメタボリックシンドロームの治療、4)それぞれの合併症に対する治療ということになります。
血糖コントロール
慢性の高血糖の指針である、HbA1cで考えます。目標は年齢や状態で個々の方によって違うのですが、一般的には7%未満を目指します(図6)。
食事と運動療法
高血糖の治療ばかりでなく、 糖尿病の主因である生活習慣を改善することです。食事・運動療法の実践により、糖尿病状態が改善され、糖尿病合併症のリスクが低下します。我々の体は、血糖値を上げるような機能を活発化することで、生き延びてきましたが、一転現在は過栄養や運動不足にさらされるようになりました。過栄養や運動不足を防ぐためには意図的な対応が必要です。つまり食事療法や運動療法が重要なのです。
薬物療法
薬は、注射薬を含めたくさんあります。糖尿病薬はなぜいろいろな種類があるのかというと、薬はそれぞれ作用するところが違います。
最後に
治療の大事なポイントは出来るだけ早く治療を始め中断しないこと、患者さんも医療者もあきらめないで糖尿病コントロールが悪くても通っていただくことです。糖尿病はひとさまざまです。このため糖尿病のいろいろな状態に対応するため、私たち医師や糖尿病スタッフがいるのです。
医師紹介
峯村 今朝美 (みねむら けさみ)
1994(平成6)年卒
役職 | 糖尿病・内分泌・代謝内科部長 糖尿病診療センター長 |
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資格 | – |
専門分野 | 糖尿病、甲状腺疾患等の内分泌代謝疾患 |
鈴木 雄一朗 (すずき ゆういちろう)
2014(H26)年卒
役職 | 糖尿病・内分泌・代謝内科医師 |
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資格 | 日本内科学会内科専門医 |
専門分野 |
山口 朋彦 (やまぐち ともひこ)
2015(平成27)年卒
役職 | 糖尿病・内分泌・代謝内科医師 |
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資格 | 日本内科学会認定内科医 |
専門分野 |