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更級膵がん早期発見プロジェクト

はじめに

南長野医療センター篠ノ井総合病院では膵がんをより早期に診断し膵がんの予後を改善するために、2019年より「更級膵がん早期発見プロジェクト」を、2025年からは「膵がんセンター」を立ち上げ、膵がんの早期発見に取り組んできました。これらの試みにより、膵がんになりやすい人に対し効率的に定期的検査を行うことで地域医療に貢献していきたいと思います。

本稿では膵臓・膵がんに対する一般的知識と、篠ノ井総合病院で行っている膵がん早期発見のための取り組みを説明します。

膵臓とは

膵臓は、胃の背中側にある、成人で長さ平均15cm、幅3cm、厚さ2cm、重さ60-100gの淡黄色を呈した臓器です。膵臓は横に長い臓器なので、おおよその位置を説明するのに体の右側から膵頭部、膵体部、膵尾部の3つの部位に分けることがあります(図1)。膵臓には2つの役割があります。食物の消化を助ける膵液という消化液の産生(外分泌機能)と、血糖値の調節などをするホルモン(インスリンなど)の産生(内分泌機能)です。膵臓の構造はブドウの形態によくたとえられますが、ブドウの房にあたる部位が腺房と呼ばれ、そこで消化液やホルモンが作られます。ブドウの茎(果梗)に相当する部位が膵管と呼ばれ、消化液を十二指腸へ運ぶ管になります。膵液の分泌量は、一日約500-1000mlにもおよびます。

 

図1 膵臓のイラストと写真

CT写真:赤枠内の灰色部分が膵臓

 

膵がんについて

膵臓は、胃の後ろの体の深部に位置していることから、膵がんが発生しても症状が出にくく、早期の発見は簡単ではありません。膵がんの初期には症状は出にくく、進行してくると、腹痛、食欲不振、腹部膨満感(すぐにお腹がいっぱいになる)、黄疸(おうだん)、腰や背中の痛みなどを発症します。その他、糖尿病を発症したり糖尿病が急に悪化したりすることもあります。ただし、これらの症状は、膵がん以外の理由でも起こることがあり、膵がんであっても、症状が起こらないことがあります。
厚生労働省が発表した人口動態統計(※)によると2023年に日本全国で膵がんと診断された患者数は47,540人です。膵がんと診断される患者数は年々増え続け、30年前の10倍以上になっています。それに伴い、2024年の膵がんの死亡数は41,235人と増加傾向にあり、悪性新生物による死因の男性4位(20,371人)、女性では3位(20,864人)になっています(図2)。2009年から2011年に診断された膵がんの5年相対生存率は8.5%とがんのなかでも際立って予後不良となっています(図3)。
※国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)

 

図2 がんの死亡率(人口10万対)の推移(国立がん研究センター)

図3 各種がんの5年相対生存率


膵がんの早期発見のために

~「更級膵がん早期発見プロジェクト」~

大きさ1cm以下の膵がんの患者さんの5年生存率は80.4%、大きさ1-2cmの膵がんの患者さんの5年生存率は50%と報告されており、膵がんの予後を改善するためには、大きさが2cm以下の段階での早期診断が必要と考えられています。しかし、膵がんは黄疸や疼痛、体重減少などの症状が出現した時点で大半は進行期です。したがって、早期診断のためには膵がんの危険因子を有する人に対して、適切な検査を継続して行うことが肝要と考えられています。膵がんの危険因子については遺伝性膵がんを含めた家族歴や、糖尿病、肥満、慢性膵炎、膵のう胞、喫煙、アルコールなどが指摘されています。複数の危険因子がある場合にはより危険は高まるとされます。

そういった膵がんの危険因子を有する人を拾い上げて精密検査を行っていくシステムとして、「膵がん早期発見プロジェクト」という取り組みが膵がんの診療に熱心な施設を中心に全国的に広がりつつあります。そこで篠ノ井総合病院では2019年4月に「更級膵がん早期発見プロジェクト」を立ち上げました。膵がんの危険因子(表)をもっている方を対象とし、膵臓の検査を継続して行っていくことで、膵がんを早期に発見しようという試みです。2019年4月から2025年末までに1129名の方が対象となり、うち89%で膵臓に何らかの異常が確認され、定期的な画像検査に移行しました。初回の精密検査で“がん”が発見されたのは2.5%でした。さらに、膵に異常が見つかり定期的に検査をしていったところ、膵がんを比較的早期に診断しできた方が少数ながら存在し、全例で手術できています。

表:膵がんの危険因子

 

危険因子
症状 黄疸
原因不明の上腹部・背部痛
画像検査異常 膵のう胞性病変
膵管拡張(3mm)
慢性膵炎(膵石)
膵腫瘤性病変
胆道拡張
血液検査異常 膵酵素異常(膵アミラーゼ・リパーゼ)
腫瘍マーカー高値(CEA、CA19-9、エラスターゼ1など)
家族歴 膵がんの家族歴(1親等以内に1人以上)
糖尿病 初発から3年以内
急激な悪化

※「膵癌診療ガイドライン2022年版 日本膵臓学会」をもとに作成

 

 

「更級膵がん早期発見プロジェクト」により、発見された膵がんの実例

70歳台の男性が左股関節痛で救急要請し、救急車で篠ノ井総合病院に搬送されました。救急外来でCT検査を受けたところ、偶然膵臓に膵嚢胞という軽度の異常を2か所発見されました。更級膵がん早期発見プロジェクトのプロトコールに沿って半年ごとにMRI検査と腹部超音波検査で検査を受けていました。

初回から3年後のMRI検査で画像所見の変化(矢印部:膵管が狭窄し、その奥が拡張)が出現しました。腹部超音波検査、CT検査、MRI検査では腫瘍そのものは見つけることができませんでしたが、精密検査(超音波内視鏡検査)を行うと9mm大の腫瘍を見つける事ができました。腫瘍に針を刺して細胞を採取した結果、膵がんと診断できました。手術をしてみると膵がんは2.5cmの大きさで、根治切除できました。

このように定期的な画像検査を継続していくことで、膵がんが比較的早期に見つかる可能性を上げることができると期待しています。

 

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