診療科

呼吸器内科

診療科の特徴

肺を中心とした呼吸器の病気を診る科です。
様々な病気がありますが、主な疾患は慢性閉塞性肺疾患 を中心とした慢性呼吸不全、肺癌、肺炎、気管支喘息、間質性肺炎、過敏性肺炎、睡眠時無呼吸症候群などです。

慢性呼吸不全

呼吸リハビリ、栄養指導、在宅酸素療法、在宅人工呼吸療法を施行し、勉強会、散策リハビリ、遠足などを行っている患者会「わかば会」の支援も当科・理学療法士・看護師・薬剤師・栄養科・地域連携室・近隣の先生方と共に行っています。

肺癌

放射線科、呼吸器外科、病理診断科と協力することで、気管支鏡、CTガイド下肺生検、胸腔鏡下生検などなるべく侵襲の少ない方法で的確な診断をし、放射線療法、レーザー治療を除く治療が行える体制となっています。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場により肺癌の生存率は伸びつつあります。このため、4次治療以降まで行う方も多く、ご本人のご希望により2コース目以降は外来化学療法で行う方も増加しています。

間質性肺炎、過敏性肺炎

通常の間質性肺炎の鑑別に挙がるようなきのこ栽培者肺など、特殊な疾患も診ています。

睡眠時無呼吸症候群の診断・治療

簡易ポリグラフィー、終夜睡眠ポリグラフィー(PSG)を有し、PSGは2025年に4000件を超え、長野県初の日本睡眠学会認定医療機関です。
現在、内科専門研修プログラム(内科領域)基幹施設、呼吸器専門研修プログラム基幹施設・連携施設、日本呼吸器内視鏡学会関連認定施設、日本睡眠学会専門医療機関に認定されています。

 

主な疾患と治療方法

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市中で起こる肺炎
概念

呼吸器の感染症の中で、自然に治る「かぜ症候群」とは異なり、治療しなければ死亡する可能性の高いのが肺炎です。肺炎の中でも病院外で日常生活をしていた人に発症する肺炎を市中肺炎と呼びます。

疫学

肺炎は全年齢に起こりますが、65歳を超えると発症率が増加します。原因となる微生物で最も多いのは肺炎球菌で、重症化し易いのが特徴です。一方、若年者では肺炎マイコプラズマの頻度が高く、軽症例が多いです。

発症のメカニズム

気道を通して侵入した病原体が肺内で増殖し、炎症が引き起こされた状態です。年齢に加え、基礎疾患(脳梗塞、糖尿病、心・腎疾患など)を持つ人が発症し易く、かつ重症化し易いです。

症状

咳や、たん、息切れ、胸の痛み、発熱などが一般的にみられますが、高齢者では一般的な症状がみられず、「いつもと様子が変」「ボーっとする時間が多い」「食欲がない」などで発見されることもあります。

診断

診察所見、胸部エックス線画像、血液検査で診断します。肺炎と診断した場合には、さらに原因微生物を調べる検査を追加します。

治療

病原微生物に効果のある抗微生物薬で治療します。肺炎の程度が軽いのか重いのかを5つの指標で決定します(A-DROPシステム:図1)。例えば、スコアが0点(軽症)ならば外来で治療が可能ですが、3点以上ならば入院して点滴治療が望ましいです。

生活上の注意
  1. 栄養状態の保持と禁煙
    栄養状態が悪いことや喫煙は肺炎になり易く、重症化し易いことが分かっています。
  2. 併存疾患のコントロール
    糖尿病や心臓疾患、腎臓疾患などの日常コントロールが良好の場合には肺炎のリスクが低下します。
  3. 口腔ケア
    高齢者では口腔内の常在菌が肺炎の原因になるため、口腔を清潔保つことが重要です。
  4. ワクチン
    65歳以上の高齢者では微生物に対する免疫が低下するため、ワクチンが有効な手段です。現在、定期接種化されているワクチンには、インフルエンザ、新型コロナウイルス、肺炎球菌があります。これに加えて、RSウイルスのワクチンも任意で接種可能です。
予後

肺炎は比較的治りやすい病気ですが、高齢者の場合、肺炎治癒後に日常生活動作の低下する人や認知症になる人が存在します。肺炎は治療ではなく予防が重要です。

誤嚥性肺炎
概要

物を飲み込む働きを嚥下機能、口から食道へ入るべきものが気管に入ってしまうことを誤嚥と言います。誤嚥性肺炎は、嚥下機能障害のため唾液や食べ物、あるいは胃液などと一緒に細菌を気道に誤って吸引することにより発症します。吐物を大量に吸引した場合には胃酸による化学性肺炎を起こすことがあり、メンデルソン症候群と呼ばれます。

疫学

嚥下機能の低下した高齢者、脳梗塞後遺症やパーキンソン病などの神経疾患や寝たきりの患者に多く発生します。肺炎球菌や口腔内の常在菌である嫌気性菌が原因となることが多いとされます。

発祥のメカニズム

高齢者や神経疾患などで寝たきりの患者では口腔内の清潔が十分に保たれていないこともあり、この場合、口腔内で肺炎の原因となる細菌がより多く増殖してしまいます。また、高齢者や寝たきり患者では咳反射が弱くなり嚥下機能が低下します。その結果、口腔内の細菌が気管から肺へと吸引され、肺炎を発症します。また、栄養状態が不良であることや免疫機能の低下なども発症に関与してきます。他方、嘔吐などで食物と胃液を一度に多く誤嚥して発症する場合もあります。

症状

発熱、咳、膿のような痰が肺炎の典型的な症状です。しかしこれらの症状がなく、なんとなく元気がない、食欲がない、のどがゴロゴロとなる、などの非特異的な症状のみがみられることが多いのが誤嚥性肺炎の特徴です。

診断

誤嚥が明らかな場合や嚥下機能低下が確認されている患者では胸部エックス線写真で肺炎像を確認することで診断できます。白血球増加や炎症反応の亢進も重要な所見です。寝たきりの高齢者など誤嚥性肺炎の高リスク患者で肺炎が発症した場合には、本症を考えます。

治療

抗菌薬を用いた薬物療法が基本です。呼吸状態や全身状態が不良な場合は入院して治療を行います。同時に口腔ケアの徹底、嚥下指導も重要です。また、嚥下機能に悪影響を及ぼす薬物を内服していないかチェックし、その上で、嚥下反射を改善する効果が確認されているACE阻害薬などの適応を検討することがあります。

生活上の注意

喫煙で気道粘膜の浄化が抑制され、細菌が付着しやすくなるとされるため禁煙は重要です。また誤嚥防止のリハビリテーションも有効とされています。介護者は、患者の食事の際に十分に上体を起こし、ゆっくりと咀嚼・嚥下するよう指導することが大切です。肺炎球菌のワクチンも受けておくべきでしょう。

予後

高齢者や中枢神経系障害などで寝たきりの患者に発症し、慢性的に繰り返し発症する場合もあるので、予後不良の場合も少なくありません。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)
概要

慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)は、タバコの煙を主とする有害物質を長年吸い込むことなどが原因となり、肺の空気の通りが悪くなり、息切れ、せき、たんなどの症状を起こす病気です。症状が徐々に悪化するだけでなく、感染などを契機に増悪(急な悪化)を起こして緊急の治療や入院が必要となることがあります。適切な治療により症状を改善し、増悪(急な悪化)を予防することが重要です。

疫学

日本では、40歳以上の約12人に1人、推定で530万人以上がCOPDの患者であると考えられていますが、実際に医療機関に受診している人は約38.2万人です(※1)。ゆっくりと進行するため、自分では気づきにくく、多くの方が診断や治療を受けていないのが現状です。

発病のメカニズム

主にタバコの煙などを長年吸い込むことで発症し、肺気腫(肺が壊れる)や慢性気管支炎(気管支の炎症が続く)で肺の空気の通りが悪くなり、息切れ、せき、たんなどの症状がみられます。最大の原因は喫煙であり、喫煙者のおよそ15~20%が発症するとされており、その他にも大気汚染や呼吸器感染症、職業上の曝露などが影響することもあります。

症状

歩行時や坂道・階段での息切れ、長引くせきやたんがみられます。また、風邪をひくと長引いたり、繰り返したりします。喫煙歴(現在は禁煙していても過去に喫煙習慣があった方を含む)があり、これらの症状に心当たりがある方は、呼吸機能検査(スパイロメトリー)ができる医療機関を受診することをおすすめします。
下記に、COPDの症状を簡単に確認できるチェックリスト(COPD-PS)のリンクを掲載しています。気になる症状がある方は是非ご活用ください。
https://www.gold-jac.jp/support_contents/copd-ps 【一般社団法人GOLD日本委員会】

診断

呼吸機能検査では、空気が肺からうまく吐き出せない閉塞性換気障害がみられます。自覚症状が少ないこともあるため、健診などでこの異常を指摘された場合は、早めにかかりつけ医や呼吸器内科を受診しましょう。CTでは肺気腫を認めることがあります。COPDでは骨粗鬆症、栄養障害、心血管疾患などの全身併存症が増加するため、これらの全身併存症の診断、治療もあわせて行います。

治療

治療の目的は、息切れやせきなどの症状を和らげ、病気の進行や増悪(急な悪化)を防ぐことにあります。喫煙を続けると呼吸機能の悪化が加速してしまうため、禁煙が治療の基本となります。治療薬としては気管支拡張薬(抗コリン薬、β2刺激薬)の吸入薬が中心となり、必要に応じて吸入ステロイドが併用されます(注1)。飲み薬としては、たんを出しやすくする薬およびテオフィリン薬や、感染症が原因で症状が悪化した場合に抗菌薬が使われます。息切れを軽くする呼吸法や、筋力・持久力を保つための運動療法などのリハビリテーションを取り入れることで、呼吸機能の維持や生活の質の向上が期待できます。病気が進行して体内の酸素が不足するようになった場合には、自宅で酸素を吸入する治療や、小型の人工呼吸器を使って呼吸を助ける治療が必要になることもあります。
(注1)治療薬の種類や使用方法などについて、より詳しく知りたい方は以下のリンク(独立行政法人環境再生保全機構のサイト)もご参照ください:https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/copd/about/09.html

生活上の注意

手洗いやうがいを習慣づけ、インフルエンザや肺炎球菌、新型コロナウイルス、RSウイルスに対するワクチンを受けておくことで、感染による増悪を予防します。また、身体活動性を向上させること(注2)も大切です。COPDでは呼吸に多くのエネルギーを使うため、栄養不足による体力低下をきたしやすく、バランスの良い食事で体重を管理することが大切です。治療を継続し、定期的に医療機関を受診することで、症状を改善し増悪を防ぎ、病気の進行を防ぐことが重要です。
(注2)「身体活動性の向上」とは、普段の生活や仕事などを含む身体の活動で、「じっとしている=不活動」状態をなるべく減らして活動的に日々を過ごすことを指します.

「木洩れ陽2032」プロジェクト

2023年の日本におけるCOPDの死亡者数は16,941人です(※2)。日本呼吸器学会では、2032年までにCOPDによる死亡率を減らすことを目標に、「木洩れ陽2032」プロジェクトを推進しています。自治体や医療機関と協力し、COPDの早期発見と治療の重要性を広めています。
COPDについてさらに詳しく知りたい方は、以下のウェブサイトをご覧ください。
https://www.jrs.or.jp/comore-by2032/ 【一般社団法人日本呼吸器学会】

慢性呼吸不全
どのような病気ですか

大気中から酸素を体に取り入れて、体内でできた炭酸ガスを体外に放出するという肺の本来の働きを果たせなくなった状態を呼吸不全と呼びます。通常、動脈の血液中には100mmHg程度の酸素が含まれており、ほとんどが赤血球中のヘモグロビンと結合して体の各組織に運ばれます。血液中の酸素が減少することを低酸素血症と呼びます。体の組織でできた二酸化炭素を十分に体外に放出できないと高二酸化炭素血症になります。
動脈血中の酸素分圧が60mmHg以下になることを呼吸不全と定義しています。二酸化炭素分圧の増加を伴わない場合(45mmHg以下)をI型呼吸不全、45mmHgをこえる場合をII型呼吸不全と呼びます。このような呼吸不全が1か月以上続く状態を慢性呼吸不全といいます。慢性呼吸不全を引き起こす肺の病気には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺結核後遺症、間質性肺炎、肺がんなどがあります。肺だけではなく、筋萎縮性側索硬化症や筋ジストロフィーなどの神経や筋肉の病気でもおこることがあります。

どのような症状ですか

低酸素血症による息切れ(呼吸困難感)が主な症状です。軽症の場合は坂道や階段でのみ息切れ(労作時呼吸困難)を自覚します。重症になると身の回りのことをするだけで息切れを感じて、日常生活が困難になります。その他の症状は原因となっているそれぞれの病気によります。高二酸化炭素血症が進行すると、頭痛や血圧上昇、羽ばたき振戦、意識レベルの低下などがみられますが、ゆっくりと病気が進行した場合は症状に乏しいこともあります。

どんな治療法がありますか?

慢性呼吸不全の治療は大きく分けて、1.在宅酸素療法、2.換気補助療法、3.呼吸リハビリテーションがあります。その他、原因となっている疾患に対する治療が必要です。

  1. 在宅酸素療法
    大気中の酸素濃度は約20%ですが、この酸素濃度では十分に血液中の酸素を高めることができなくなった慢性呼吸不全の患者さんでは、濃い酸素を吸入することで血中酸素分圧を保つことができます。自宅でも酸素を吸入することが可能であり、在宅酸素療法(HOT)と呼ばれています。HOTでは自宅に設置した酸素供給器(酸素濃縮器や液体酸素タンク)からカニューラと呼ばれる細長いチューブをとおして酸素を吸入します(資料1)。酸素濃縮器は空気中の酸素と窒素を分離し、酸素のみを患者さんへ供給することができます。液体酸素も使用可能ですが、ほとんどの場合で酸素濃縮器が使用されています。携帯用酸素ボンベを使うことで外出も可能です。最近では比較的軽量な携帯型酸素濃縮器も使用できるようになり、充電さえ行えば長時間の外出も可能となっています。現在、適応基準を満たせば、在宅酸素療法は健康保険が使えます。
  2. 換気補助療法
    動脈血中の酸素が少ない場合は酸素吸入で対応することができますが、二酸化炭素が増えてきた場合は酸素療法のみでは不十分であり、機械の力を借りて呼吸の補助を行う必要が生じます。従来の人工呼吸は気管の中に管を入れなければできませんでした。これでは、声を出すことができなくなりますし、在宅療養や長期間の管理が難しくなります。しかし最近では、非侵襲的陽圧換気(NPPV)と呼ばれる特殊なマスクを装着して行う人工呼吸の方法が進歩しています(資料2)。鼻や顔に密着したマスクから、設定した圧力で肺の中に空気を送り込む方法です。このような方法により二酸化炭素が増えている慢性呼吸不全の患者さんに対して気管に穴を開けなくても在宅で対応することができるようになってきています。
  3. 呼吸リハビリテーション
    日常生活の指導、運動療法、栄養指導、肺理学療法などを含めた多職種による包括的呼吸リハビリテーションが行われます(資料3)。これによって慢性呼吸不全患者の生活の質(QOL)や日常活動度(ADL)を改善させることが可能と考えられています。
気管支喘息
概念

気管支喘息(喘息)は空気の通り道(気道)に炎症が続き、さまざまな刺激に対して気道が敏感になり発作的に気道が狭くなること(大火事)を繰り返す病気です。日本では子供の8~14%(赤澤 晃 ガイドラインの普及効果QOLに関する全年齢全国調査に関する研究報告書 2008年)、大人では9~10%(Fukutomi Y. Int Arch. Allergy Immunol 2010)が喘息です。高年齢で発症する方もおられます。炎症の原因はチリダニやハウスダスト、ペットのフケ、カビなどのアレルギーやウイルス感染(風邪)によることが多いのですが、その原因が特定できないこともあります。

症状

発作的に咳や痰が出て、ゼーゼー、ヒューヒューという音を伴って息苦しくなります(必ずしもすべての症状が出るわけではありません)。夜間や早朝に出やすいのが特徴です。また、季節性に変化したり、冷気、香水や線香などの香りで誘発されることもあります。

診断

このような症状を繰り返したり、3週間以上続く場合には、喘息の可能性があります。呼吸機能検査で気道の空気の流れが悪くなっていないかどうか調べます。気管支拡張薬を吸ったあとにその流れが改善すれば喘息の可能性が高いです。また、痰の検査や吐いた息の中の一酸化窒素濃度などを測定して気道の炎症がないかどうか、血液検査でアレルギー体質かどうかなども検査します。

治療

症状が無ければ喘息は治ったと思われるかもしれませんが、気道の炎症は続いています。炎症が続けばいずれまた発作(大火事)が起こり、学校や会社を休んだり、日常・社会生活に影響が出ます。そして炎症が続くと気道が固く狭くなり元に戻らなくなりますので、治療によって症状をおさえることが困難になります。したがって、日頃から炎症をおさえる薬を使って発作を予防しなければなりません。その主役は吸入ステロイド薬です。適切に使用すれば副作用は少なく安全です。喘息の重症度に応じてその量を調整したり、他の薬を追加したりします。また、アレルギーなどの原因が分かっている場合はそれらを避け、喫煙していれば禁煙しましょう。もし発作が起こったら、即効性のある気管支拡張薬を吸入しましょう。何度か繰り返しても改善しなければ速やかに病院を受診してください。

間質性肺炎
概要

肺は肺胞というブドウの房状の小さな袋がたくさん集まってできています。間質性肺炎は、肺胞の壁に炎症や損傷が起こり、壁が厚く硬くなるため(線維化)、酸素を取り込みにくくなる病気です。原因不明のものを特発性間質性肺炎(IIPs)と総称します。IIPsは主要な6つの病型、稀な2つの病型および分類不能型に分類されます。

疫学

最近の我が国の調査では、IIPsのなかで、特発性肺線維症(IPF)が最も多く、70~80%、次いで特発性非特異性間質性肺炎(特発性NSIP)が5~16%、その他、特発性器質化肺炎が2~3%程度、特発性胸膜肺実質線維弾性症(特発性PPFEと呼ばれます)が5~7%を占めています。わが国におけるIPFの調査では、発症率が10万人対2.23人、有病率が10万人対10.0人とされています。IPFでは、喫煙が「危険因子」であると考えられています。

発病のメカニズム

IIPsの原因は不明ですが、複数の原因遺伝子と環境因子が影響している可能性が考えられています。また、IPFは未知の原因による肺胞上皮細胞(肺胞壁の構成細胞)の繰り返す損傷とその修復・治癒過程の異常が主たる病因・病態とされており、肺胞上皮細胞の機能に関与する遺伝子異常が注目されています。

症状

初期には無症状ですが、進行に伴い、動いた時の息切れや痰を伴わないせきを自覚します。時に1ヶ月以内の短期間で症状が悪化する場合あり、「急性増悪」と言います。IPFで最も多いですが、他の病型のIIPでも認められます。

診断

問診、身体診察に加えて、胸部CT(図1)、呼吸機能検査、運動時の血液中の酸素の量(酸素飽和度)の確認、気管支鏡検査による組織採取や肺の洗浄検査等から診断を行います。患者さんの年齢、合併症を含めた病状を総合的に評価し、全身麻酔で行う手術や気管支鏡による凍結生検法による組織採取も行われます。

治療

IPFでは慢性的な進行を遅らせるため、抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)が使われます。IPF以外の病型のIIPsでは、ステロイド薬や免疫抑制薬の他、線維化が進行すればニンテダニブの使用を検討します。特発性PPFEに対して推奨できる薬剤はありません。進行すれば酸素吸入が必要です。急性増悪時には、ステロイド薬や免疫抑制薬で治療されます。

生活上の注意

風邪、インフルエンザ、新型コロナウィルス感染、肺炎などをきっかけとして急性増悪が発症することがあります。日常の手洗いやうがい、ワクチン接種が推奨されます。

予後

IPFの生存期間中央値は欧米では診断確定から28~52ヶ月、わが国では35ヶ月(約3年)とされていますが、経過は患者さんによって様々です。特発性非特異性間質性肺炎や特発性器質化肺炎は一般に治療で改善が期待され、IPFよりも予後は良好とされますが、徐々に悪化していく場合もあります。特発性PPFEの経過は様々で、経過の予測は困難です。

肺癌

肺がん(1)概要と検査・診断

概要

肺がんは、肺に発生する悪性腫瘍で肺そのものから発生したものを原発性肺がんといい、通常肺がんといえば原発性肺がんを指します。一方、他の臓器から発生し、肺に転移したものを転移性肺がん、または、肺転移と呼びます。基本的にがんの性質は、どの臓器から発生したかで決まります。肺がんは、早期であれば手術が最も治癒の期待できる治療法ですが、発見された時には進行している場合が多く、手術のほかに放射線治療や抗がん剤治療、さらにこれらを組み合わせた治療が選択されます。進行した全身のがんの中では、最も治療が難しいがんの1つです。

疫学

日本人の2人にひとりががんになるといわれる時代ですが、年間約12万人が肺がんになり7万人が死亡する、がんの中で最も死亡数が多い病気です。また、5年生存率も30%強で、膵がんと並んで治療が難しいとされています。

原因と発病

肺がんの原因の70%はタバコですが、その他に受動喫煙、環境、食生活、放射線、薬品が挙げられます。タバコには約70種類の発がん物質が含まれており、肺や気管支が繰り返し発がん物質にさらされることにより細胞に遺伝子変異が起こり、この遺伝子変異が積み重なるとがんになります。

症状

肺がんに特徴的な症状はありません。肺がんの種類、発生部位、進行度によって症状は異なります。せき、たん、倦怠感(だるさ)、体重減少、胸痛などさまざまですが、これらの症状はほかの呼吸器の病気でもみられます。一方、血の混じった痰(血痰)は肺がんの可能性が高く、速やかに専門病院受診をお勧めします。日本人で最も多いのは無症状で、検診や、他の病気で胸部エックス線やCTを撮ったときに偶然発見される場合です。従って、最近では、人間ドックや検診にオプションでCT検診を選べるところもみられます。

検査

肺がんの検査には、①肺がんであることを調べる検査として、CT、痰検査や気管支鏡を用いた組織・細胞検査(病理学的診断)があります。胸水が貯まっている場合は、針を体内に刺して胸水を採取しがん細胞の有無を調べます。②肺がんの進行度(がんの広がり)を調べる検査には、全身CT、PET-CT検査、脳MRI、骨シンチグラフィなどが用いられます。以上の検査で、肺がんの種類(小細胞がん、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん)を明らかにします。肺がんの10-15%を占める小細胞がんと、それ以外の非小細胞がん(小細胞がん以外のがん)では治療法が異なり、さらに進行度に応じてそれぞれ治療法が異なります。進行度は、転移のないものから進行がんまで4段階に分けI期、II期、III期、IV期に分類し、さらに腫瘍の大きさやリンパ節転移の広がりによってA、B、C(A、B、Cの順で進行している、CはIII期のみ、IA期はIA1-3に)に分類します。

治療

極めて進行が早く、発見された時にはすでに転移している場合が多い小細胞肺がんと、小細胞肺がんほど早く進行しない非小細胞肺がんでは、治療法が異なるため、次の項を参照ください。

  • 【肺がん(2)肺がんの治療】
    小細胞肺がんは、発見時にはすでに転移していることが多く、遠隔転移(脳、骨、肝臓、副腎など:進展型と呼ばれる)がある場合は、抗がん剤治療を行い、遠隔転移がない(肺がんのある側の肺とリンパ節転移までに留まっている:限局型と呼ばれる)場合は、抗がん剤と胸部放射線照射の組合せが用いられます。進展型では、これまでシスプラチンとイリノテカンまたはシスプラチンまたはカルボプラチンとエトポシドを組み合わせた2剤併用療法が行われてきましたが、最近では免疫チェックポイント阻害薬という免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ薬を同時に使う治療法が一般的です。小細胞肺がんで用いられる免疫チェックポイント阻害薬にはアテゾリズブとデュルバルマブがあります。カルボプラチンとエトポシドとアテゾリズマブ後にアテゾリズマブの維持療法を行う治療法とカルボプラチンまたはシスプラチンとエトポシドとデュルバルマブ後にデュルバルマブの維持療法を行う治療法があります。
    限局型では胸部に1日2回、週5日間で3週間放射線照射し、同時にシスプラチンとエトポシドを併用する抗がん剤治療を行います。抗がん剤治療は3週間~4週間を1つの単位(1サイクルまたは1コース)として4回繰り返します。その後、治療効果が非常に良好であれば予防的な脳への放射線治療を行うことを検討します。また、治療効果が良好であれば、予防的な脳への放射線治療の有無に関わらず、その後に免疫チェックポイント阻害薬であるデュルバルマブの維持療法を行う治療法が一般的です。
    非小細胞肺がんは、IA1-IA2期では手術のみ、IA3期から手術可能なIIIB期までは手術後に抗がん剤治療を組み合わせるのが一般的です。最近では負担が軽い胸腔鏡(内視鏡)による手術も広く行われています。何らかの理由で手術ができない場合も、早期であれば定位放射線照射で手術並みに治すことが可能です。専門家のチームで手術が難しいと判断されたIIIA、IIIB期では胸部放射線照射(1日1回、週5日間を6週間照射)と抗がん剤2剤を組合せた併用療法を行い、その後にデュルバルマブの維持療法を行います。放射線照射ができないIII期、IV期では抗がん剤治療を行います。
    進行肺がんについては、現時点では、治る方の割合は多いものではありません。近年、分子標的治療薬と呼ばれる新しい薬が開発され、対象となるドライバー遺伝子と呼ばれる遺伝子の変異や転座陽性の患者さんでは劇的な腫瘍縮小効果と延命効果が得られています。ドライバー遺伝子変異や転座としては、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、RET、NTRK、KRAS、HER2があり、それぞれのドライバー遺伝子に対応した分子標的薬(オシメルチニブやアレクチニブなど)を使うことができます。一方で、これらの分子標的薬は、間質性肺炎などの副作用がでやすいことが知られており、注意が必要です。また、ドライバー遺伝子変異・転座のない患者さんには、免疫チェックポイント阻害剤または免疫チェックポイント阻害薬と抗がん剤の組み合わせの免疫療法が一般的です。免疫チェックポイント阻害薬としては、アテゾリズマブ、ペムブロリズマブ、デュルバルマブ、イピリムマブ+ニボルマブ、トレメリムマブ+デュルバルマブが用いられます。
    また、喫煙者は肺がんになりやすいだけでなく、薬が効きにくい、副作用がでやすいといった不利な状況が確認されています。喫煙は、肺がんの発生に強く関与することが証明されており、現在、最も重要な肺がんの予防対策は禁煙の徹底です。いずれにしても、喫煙は今すぐ止めることが推奨されます
治療費の軽減施策

高額療養費制度により、高額ながん治療費を軽減できる施策があります。自己負担分が一定額以上になった場合、負担が軽減されます。詳しくは、各病院のがん相談センターまたは相談員にお尋ねください。

生活上の注意
  1. 本人が禁煙するのはもちろんのこと、家族で禁煙に取り組みましょう。一部の治療薬は喫煙者で重い副作用が出現することがあります。
  2. 治療中は、感冒など感染に注意しましょう。
  3. 規則正しい食生活を心掛け、バランスのとれた食事をしましょう。

詳しい情報は「国立がん研究センターがん情報サービス」を御覧ください。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)
概要

睡眠中に無呼吸を繰り返すことで、様々な合併症を起こす病気です。

疫学

成人男性の約3~7%、女性の約2~5%にみられます。男性では40歳~50歳代が半数以上を占める一方で、女性では閉経後に増加します。

発症のメカニズム

空気の通り道である上気道が狭くなることが原因です。首まわりの脂肪の沈着が多いと上気道は狭くなりやすく、肥満はSASと深く関係しています。扁桃肥大、舌が大きいことや、鼻炎・鼻中隔弯曲といった鼻の病気も原因となります。あごが後退していたり、あごが小さいこともSASの原因となり、肥満でなくてもSASになります。

症状

いびき、夜間の頻尿、日中の眠気や起床時の頭痛などを認めます。日中の眠気は、作業効率の低下、居眠り運転事故や労働災害の原因にもなります。

診断

問診などでSASが疑われる場合は、携帯型装置による簡易検査や睡眠ポリグラフ検査(PSG)にて睡眠中の呼吸状態の評価を行います。PSGにて、1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせた回数である無呼吸低呼吸指数(AHI)が5以上であり、かつ上記の症状を伴う際にSASと診断します。その重症度はAHI5~15を軽症、15~30を中等症、30以上を重症としています。

治療

PSGでのAHIが15以上で日中の眠気などを認めるSASでは、経鼻的持続陽圧呼吸療法(Continuous posi-tive airway pressure:CPAP)が標準的治療とされています。CPAPはマスクを介して持続的に空気を送ることで、狭くなっている気道を広げる治療法です。また、下あごを前方に移動させる口腔内装置(マウスピース)を使用して治療することもあります。小児のSASではアデノイド・口蓋扁桃肥大が原因であることが多く、その際はアデノイド・口蓋扁桃摘出術が有効です。

生活上の注意

肥満者では減量することで無呼吸の程度が軽減することが多く、食生活や運動などの生活習慣の改善を心がけることが重要です。アルコールは睡眠の質を悪化させるので、晩酌は控える必要があります。

予後

成人SASでは高血圧、脳卒中、心筋梗塞などを引き起こす危険性が約3~4倍高くなり、特に、AHI30以上の重症例では心血管系疾患発症の危険性が約5倍にもなります。しかし、CPAP治療にて、健常人と同等まで死亡率を低下させることが明らかになっています。


 

医師紹介

松尾 明美 (まつお あけみ)

1993(H5)年卒

役職 副院長、呼吸器内科統括部長、睡眠呼吸センター長、臨床研修センター長、感染対策室長
資格 日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医
日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医
日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医・指導医
日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医
日本睡眠学会総合専門医・指導医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本プライマリ・ケア連合学会認定医・指導医
日本病院総合診療医学会認定病院総合診療医・指導医
日本専門医機構総合診療専門研修特任指導医
日本感染症学会推薦ICD制度協議会インフェクションコントロールドクター
肺がんCT検診認定機構CT検診認定医師
日本医師会認定産業医
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会呼吸ケア指導士
日本救急医学会ICLSインストラクター
JMECCインストラクター
専門分野 過敏性肺炎、呼吸管理、睡眠呼吸障害、抗酸菌症
堀内 俊道 (ほりうち としみち)

2002(H14)年卒

役職 呼吸器内科部長
資格 日本内科学会認定内科医
長野県DMAT隊員
専門分野 呼吸器内科
馬場 大喜(ばんば ひろき)

2023(R5)年卒

役職 呼吸器内科医師
資格
専門分野

担当医表

呼吸器内科 月 火 水 木 金 土
担当医 馬場 松尾 信大 馬場 堀内
神田①③⑤