

南長野医療センター篠ノ井総合病院では、2025年に長野市南部の病院として初めて手術支援ロボット「ダビンチXi」を導入し運用を開始しました。
これにより低侵襲(=身体への負担が少ない)で精巧な手術を提供することが可能となりました。
当院では、引き続き安全で質の高い医療を地域の皆様に提供していきます。
「ダビンチ」とは
ダヴィンチは米国インテュイティブサージカル社が開発した手術用ロボットで、ダヴィンチXiは第4世代にあたる機種です。現在日本では600台を超えるダヴィンチが稼働しています。(2023年現在)
患者さんの身体的な負担が少ない腹腔鏡下手術の特長を生かしつつ、ロボットの機能による支援によって、従来不可能とされていた手術操作が可能になりました。
ダヴィンチは3つの機械から成り立っており、医師はロボットのアームについている鉗子やカメラを遠隔操作して手術を行います。ダヴィンチのみで手術が行われるわけではなく、患者さんの脇に助手の医師と看護師がついて補助を行い、協調して手術が行われます。

メッセージ

当院では、より質の高い医療を地域の皆様に提供するために、2025年4月より手術支援ロボット『ダビンチ(da Vinci Xi)サージカルシステム』を導入致しました。正式導入に先立ち、試行期間として2024年12月から2025年3月まで同機種をレンタルし、2025年2月には泌尿器科による前立腺癌手術、消化器外科による直腸癌切除手術を開始しました。試行期間中に前立腺癌手術3例、直腸癌手術6例と予定を上回るペースで手術を施行しました。いずれの手術もトラブルなく終了しております。2025年4月に購入し、正式導入しました。
婦人科による子宮癌手術、仙骨膣固定手術(子宮脱手術)、消化器外科による胃癌手術も予定しており、今後はロボット支援手術を積極的に行う予定です。ダビンチは、アメリカのIntuitive Surgical社が1990年代に開発した手術支援ロボットです。2000年にFDA(アメリカ食品医薬品局)に手術支援ロボットとして初めて承認され、その後、患者さんの体への負担が少ない手術ができることや、精密な手術ができることなどから、アメリカ全50州はもちろん、全世界69か国の医師に使用されています。ダビンチ手術の症例数は世界で約100万例、ダビンチ手術のトレーニングを修了した医師は約6万数千人にのぼります。日本では、2009年にダビンチ手術が薬事承認され、現在全国で約600台以上が導入されています。始まった当初に比べると技術面においても、安全面においてもかなり進歩しており、なくてはならない医療機器となっております。
ダビンチは従来の「腹腔鏡手術」を支援する内視鏡手術支援ロボットです。従来の腹腔鏡手術と手術におけるアプローチ(皮膚に小さな穴をあけて器具を挿入する)は同じですが、ロボット支援手術においては、術者が患部を10倍まで拡大できる3D映像を直接見ながら操作を行うため、従来の腹腔鏡手術では難しい角度の視野確保が可能となりました。また手術操作時に用いるロボットアームは、人の手以上に器用な動きが可能で、狭い隙間でも自由に器具を操作することができます。ロボットアームの先端は医師の手と完璧に連動し、体内で自らの手で行うような感覚で手術できるのがダビンチの特徴で、ロボットにしかできない動き(関節の360度回転など)が加わることで、開腹手術でも困難であった操作を可能とします。さらに指先の震えが鉗子の先に伝わらないように手振れ補正機能もあり、細い血管の縫合や神経の剥離など、緻密な作業も正確にできます。患者さんにとっては、傷口が小さくて済む、出血が少ない、術後の痛みが少ない、回復が早い、機能を温存できる可能性が高いなど、多くのメリットがあります。
当院では、2023年度に全身麻酔手術件数が2000件を超え、2024年度からは急性期充実体制加算を取得しております。今後も急性期病院として、このダビンチを大いに活用し、地域の皆様へ高度医療を提供できればと考えております。ロボット支援下の日本における保険適応術式も診療報酬改定のたびに拡大しております。今後は外科、泌尿器、婦人科だけではなく、多くの診療科でロボット支援下手術が導入できればと思っております。
南長野医療センター篠ノ井総合病院
院長 池野 龍雄
対象疾患
ロボット支援手術が保険適用となるのは、前立腺癌と腎臓癌、胃癌、食道癌、直腸癌、膀胱癌、肺癌、子宮体癌、縦隔悪性腫瘍、子宮筋腫、心臓弁膜症、縦隔良性腫瘍、すい臓癌、2022年4月には結腸癌などにも広がっています。
ロボット支援手術を保険適用で受けられる病気は、腹腔鏡や胸腔鏡を用いる内視鏡手術の適応であることが前提となっています。保険適用となる病気でも、内視鏡手術の適応でない場合はロボット支援手術を受けることはできません。
保険適用となる疾患
日本における保険適用状況
- 前立腺悪性腫瘍手術
- 腎悪性腫瘍手術
- 胸腔鏡下縦隔悪性腫瘍手術
- 胸腔鏡下良性縦隔腫瘍手術
- 胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術
(肺葉切除又は1肺葉を超えるもの) - 胸腔鏡下食道悪性腫瘍手術
- 胸腔鏡下弁形成術
- 腹腔鏡下胃切除術
- 腹腔鏡下噴門側胃切除術
- 腹腔鏡下胃全摘術
- 腕腔鏡下直腸切除・切断術
- 腹腔鏡下膀胱悪性腫瘍手術
- 腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手街
(子宮体がんに限る) - 腹腔鏡下膣式子宮全摘術
- 膵頭十二指腸切除術
- 肺悪性腫瘍手術区域切除
- 拡大胸腺摘出術
(重症筋無力症に対する) - 仙骨膣固定術
- 食道悪性腫瘍手術
(消化管再建を伴う)
(頸部、腹部の操作) - 膵体尾部切除術
- 腎盂尿管吻合術(腎盂成術を含む)
- 鏡視下咽頭悪性腫瘍手術
(軟口蓋悪性腫瘍手術を含む) - 鏡視下喉頭悪性腫瘍手術
- 腹腔鏡下総胆管拡張症手術
- 腹腔鏡下肝切除術
- 腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術
- 腹腔鏡下副腎摘出術
- 腹腔鏡下副腎髓質腫瘍摘出術
(褐色細胞腫) - 腹腔鏡下尿管悪性腫瘍手術
- 腹腔鏡下胃切除術
- 腹腔鏡下噴門側胃切除術
- 腹腔鏡下胃全摘術
※2022年3月現在。
術式名は厚労省資料より引用
費用について
平成24年4月に前立腺がんに対する前立腺全摘除術、平成28年11月に腎細胞がんに対する腎部分切除術を行う場合に、ダビンチによるロボット支援手術は保険適用となりました。また、平成30年4月には縦隔腫瘍、肺がん、食道がん、心臓弁膜症、胃がん、直腸がん、膀胱がん、子宮体がん、子宮筋腫に対する手術も保険適用となりました。 当院では各疾患に対して順次対応していく予定ですが、詳細につきましては各診療科にお問い合わせください。 入院・手術に関わる費用は年齢や年収、健康保険制度によって異なりますのでお問い合わせください。

メリット・デメリット
ダビンチのメリット
傷口が小さい
内視鏡や鉗子を挿入するため、5-12mmの傷で済みます(術式によって異なります)。
手術によっては摘出臓器を取り出すために傷を延長する必要があります。
術中の出血が少ない
ロボットによる精緻な操作により、開腹手術と比較して術中出血が少なくて済みます。
機能の温存が向上
鉗子の正確で細密な動きによって体の機能を温存させる手術が期待できます。
術後の疼痛が少なく
回復も早い
傷口が小さいため、傷の痛みは少なく、術後の回復も早い傾向にあります。
術後合併症のリスクが低い
創部の感染が少なく、腸閉塞などの合併症発生率も低い傾向にあります。
正確な患部の切除
操作性が良く、精密な切除が可能であるため、より正確な切除が可能と言われています。
ダビンチのデメリット
触覚がない
鉗子類には触覚がないため、術者には慣れが必要です。
当院医師は所定のトレーニングを終了し認定資格を取得した医師が執刀しています。
併存疾患によっては
手術ができません
併存疾患によっては、ロボット支援手術を受けることができません。
詳細は担当医師にご相談ください。
診療科
外科
外科領域でのロボット支援下手術
日本では、2018年に食道癌・胃癌・直腸癌に対してロボット支援下手術が保険収載されたのをきっかけに、多くの施設で導入され、ロボット支援下での手術件数は飛躍的に増加しました。ロボット支援下手術は従来の開腹手術と比較して、傷が小さく痛みが軽度で、手術後の回復が早いなどの利点があります。また、手術支援ロボットの先端は多関節を有しており、術者自身の手のように曲がり、術野での繊細な操作が可能となります。3D画像を見ながら行う繊細な手術により、根治性や機能温存、合併症の低減の可能性が期待されています。一方、ロボット手術では触覚がないため、大きな腫瘍などでは従来の開腹手術・腹腔鏡手術がお勧めされる場合もあります。
当院で行うロボット支援下手術と対象疾患
術式:ロボット支援腹腔鏡下直腸切除術
対象疾患:直腸癌
現在は上記疾患のみですが、胃癌や結腸癌(直腸以外の大腸癌)についても準備中です。

患者さんへ
当院でもロボット支援下手術を導入し、より繊細で精緻な手術が可能となりました。現在ではまだ対象疾患も限られていますが、徐々に拡大していく予定です。開腹手術・腹腔鏡手術も今まで同様行っており、患者さんとその病状に適した最適な手術や治療方針を提案させて頂きます。外科受診の際には担当医より手術内容・治療方針について御理解頂けるよう説明いたします。
産婦人科
産婦人科領域でのロボット支援下手術
2018年4月に子宮筋腫などの良性疾患に対するロボット支援下腹腔鏡下子宮全摘術と早期子宮体癌に対するロボット支援下子宮悪性腫瘍手術が保険適応となりました。
また2020年4月からは骨盤臓器脱(子宮脱)に対するロボット支援下仙骨腟固定術が保険適応となりました。
当院で行うロボット支援下手術と対象疾患
当科では下記3種類の手術を2025年4月から開始していきます。
・ 子宮筋腫などの良性疾患に対するロボット支援下腹腔鏡下子宮全摘術
・ 早期子宮体癌に対するロボット支援下子宮悪性腫瘍手術
・ 骨盤臓器脱(子宮脱)に対するロボット支援下仙骨腟固定術
患者さんへ
ロボット支援下手術では拡大視野と自由に動くアームにより、安全でより精緻な手術がおこなえます。特に骨盤臓器脱や子宮体癌ではその能力を大きく発揮します。骨盤臓器脱の症状でお困りの方、あるいは子宮体癌と診断され手術が必要になってしまった患者さんは当院への紹介、あるいは受診をよろしくお願いします。
泌尿器科
泌尿器科領域でのロボット支援下手術
手術支援ロボットda Vinciは、初期の機種da Vinci Sが2009年11月、薬事承認され、2012年4月、前立腺癌に対する手術が保険適応としてできるようになりました。長野県では、2012年に信州大学医学部附属病院に1台目が導入されて以降、県内でも導入する病院が増えてきています。機種の改良もなされており、現在の最新機種da Vinci Xiが2025年4月に当院に導入されました。県内ではda Vinciを保有する病院は9施設となっています。 泌尿器科領域では、前立腺癌に対する手術に次いで、2016年4月に腎癌に対しての部分切除術、2018年4月には膀胱癌に対する膀胱全摘除術が、保険適応になりました。今後も適応の術式は増えていくものと思われます。
当院で行うロボット支援下手術と対象疾患
当院で行う手術は、まず前立腺癌に対する前立腺全摘除術から開始しています。今後、腎癌、膀胱癌についても導入していく予定です。

患者さんへ
前立腺は骨盤内の奥深くにあり、前立腺癌に対する根治手術は難易度の高い手術でした。
手術支援ロボットda Vinciを使用することにより、以前行われていた開腹手術と比べて、傷が小さく手術後の回復が早い、手術時の出血が少ない、膀胱と尿道の吻合がしっかり行え手術後の尿失禁が少ない、入院期間が短くなる、などのメリットがあります。
ただし、前立腺癌の患者さん全員が適応になるわけではなく、癌の状態、年齢、併存疾患(持病)、などの条件により、この治療法が向かないこともあります。治療の方針については、主治医とよく相談をしていただければと思います。
ダビンチの特徴

ペイシェントカート
患者さんに接続する機器です。4本のアームを持ち、1本には術野を確保する精細な高画質の3次元カメラを接続します。残りの3本のアームには、患者さんに挿入するロボット専用鉗子を接続します。ダヴィンチXiでは従来の機種よりアーム同士の干渉が少なく、アームの可動距離が長くなったため、より手術がやりやすくなっています。

ビジョンカート
ダヴィンチの中枢となる機器です。ペイシェントカートから送られてくる画像をハイビジョン3D画像として作成しリアルタイムで表示します。最大14倍までの拡大ズームが可能です。

サージョンコンソール
術者がレンズを覗いてハイビジョン3D画像を見ながらペイシェントカートに取り付けたカメラ・鉗子を操作します。
自在に動く鉗子は360°以上回転し、手振れも補正されます。繊細な動きが可能で、従来の腹腔鏡手術でも不可能であった複雑で繊細な手術操作が可能となっています。